Ichikawa Zoen Co., Ltd Tokyo branch株式会社市川造園
東京作業所
緑師プロジェクトvol.05

〜地域と職人を繋ぐ〜
緑師オフィス
プロジェクト

市川造園東京作業所では、「緑師」というジョブタイトルに基づいて、「未来の都市生活をより豊かで持続的なものにするために、都市の緑の管理と啓蒙をになう造園職人」という新しい職能の開発に取り組んでいます。
その一環として、私たちが勤める東京作業所では、2020年の作業所設立以来「職人と地域を繋ぐ場所づくり」に取り組んできました。

都市の緑をになう造園業の魅力を社会に伝えていくためには、職人たちが直接地域と繋がり、仕事の技と心、日本の自然と文化、四季の美しさや生き物の面白さを社会と共有することができる、そんな場所が欲しい。

そう考えて、東京作業所設立と同時に始めたのが「緑師オフィスプロジェクト」です。
私たち緑師の活動拠点を、ただの事務所ではない特別な場所にする。
この職業が街に息づいているという実感を生み、職人と地域とを直接繋ぐ装置として機能する。
そんな多目的で開かれた、特別なオフィスをつくる取り組みです。

活動拠点は賑わいのある場所に

一般的に造園業の事務所は、事務作業や打ち合わせなどを行うための環境さえ整っていれば、特別に条件を気にしなくても成り立つと思われがちです。造園業の実務だけを考えれば、土場(作業道具や車両を置くスペース)や詰め所の環境さえ整えば済みます。ただ、造園業の魅力を発信し、身近な緑の価値や素晴らしさを地域と共有していく「地域と繋がるオフィス」をつくるためには、それなりの立地とオフィスのデザインが必要です。

東京都三鷹市に構えた私たちの緑師オフィスは、敢えて市役所通り(人見街道)沿いにある路面店舗用の物件を選び、表通り側の壁を全面ガラス張りに改装しました。これは、この場所を単なる事務作業用の部屋としてではなく、軽作業もでき、植物装飾や栽培実験、地域と繋がるイベント開催など、多くの機能を持った多目的な場所として活用していこうと考えたためです。

人通りの多い道路に面したこの緑師オフィスは、私たち緑師と地域とを繋ぐためには欠かせない、特別な場所になっています。

緑師オフィス。以前は飲食店が入っていたこともある物件を借りて、ガラス張りに改装した。

地域と造園職人をつなぐデザイン

オフィスを全面ガラス張りにしたのは、私たち造園職人がこの街に息づいていることが地域の人たちに視覚的に伝わるようにと考えたためです。通りから見える室内では、緑の楽しみと私たちの存在が街に滲み出ていくようにと考えて、植物を活かしたバイオフィリックデザイン(※)に取り組んでいます。

一般的に、造園業や建設業の事務所では、単に機能性が優先されて殺風景な雰囲気になることが多いように思います。一方、今の商社やIT企業などのオフィスでは、職員たちの心の潤いや働き甲斐に配慮した就労環境の整備が当たり前になっています。地域と積極的にコミュニケーションを図ろうと考えたならば、「見られる」ことを意識することも、とても大切なことです。
こうしてオフィスをデザインすることは、造園業を次の時代に進めていくために必要な取り組みだと考えています。

※バイオフィリックデザインとは、“人は生まれつき自然とのつながりを求めている”というバイオフィリア仮説を取り入れた空間デザイン。

街に息づく造園業者として、「見られる」ことを意識したオフィス。
緑師オフィスは軽作業場としても機能する。もちろん作業の様子が通りからも見える。
オフィスでのバケツ稲栽培。緑への興味を広げる様々な取り組みが生まれる。

場所性を活かした様々な取り組み

緑師オフィスで実施している、地域と職人を繋ぐ取り組みをご紹介します。

【剪定枝のTake Free】

剪定作業で出た枝葉や松ぼっくりなど、本来であれば捨ててしまうようなものをオフィス前で無料配布するという取り組みです。

日々緑地管理に携わっているとつい処分してしまいそうなものでも、私たちが気付き、一手間を加えるだけで、地域の人たちに身近な緑の価値や面白さを伝える素材になります。職人にとっては日常のことでも、一般の方にとってそれは非日常です。木の実を拾ってきて並べるというたったそれだけの事でも、地域の人たちに私たちの仕事を知ってもらい、自然の生き物に興味を持ってもらうきっかけをつくることができます。実際、この取り組みによって私たちに興味を持ってくれた小学生がオフィスに遊びに来たり、地域の人たちから感謝と応援のメールが届いたりするようになりました。

剪定枝のTake Free。剪定枝の準備と設置の様子。
ポップ看板には植物の楽しさを紹介する説明と絵。職員のセンスが光る。
お客様のご自宅に飾られていたTakeFree剪定枝を用いたお手製ブーケ。

【緑の相談箱の設置】

緑の相談箱をオフィス前に設置して、地域の人たちからの緑に関する相談や疑問、質問を受け付け、私たちがそれに答える取り組みです。

東京作業所では、すべての職員が日々緑地管理の現場に出て働いているため、日中のオフィスはどうしても不在が多くなります。要件があればメールやSNSで気軽にコンタクトを取れる時代ですが、インターネットだけを窓口にするのでは幅広い年齢層の声に応えるのは難しい。また、ちょっとした疑問、質問だと却ってやり場がないものです。そこで、オフィス不在が多くても、私たちが緑の専門家として気軽に、そしてダイレクトに地域のお役に立てるようにする方法はないだろうかと考えて、この取り組みを始めました。ご相談に対する返答は、オフィス前に掲げた掲示板を使ってお答えする仕組みにしています。

緑の相談箱(通称:灯籠ポスト)。寄木細工の特注品。
相談用紙。気軽に相談を投函して頂けるように、匿名でも受け付けています。

【緑師ワークショップの開催】

2022年末には、緑師オフィスを会場にして、お正月飾り制作のワークショップを開催しました。
詳しくは以下のレポートページをご覧ください。
第1回緑師ワークショップ「つくってみよう お正月飾り」:https://ichikawa-zoen-tokyo.jp/info/109

緑師ワークショップは、緑地管理の職人である私たち緑師の東京作業所の所員が、「ものづくり」を通して地域と繋がっていくために、自ら企画し実施する独自のワークショップイベントです。

緑師ワークショップは、主に以下の3点を趣旨に、これからも様々な企画を展開していく計画です。
・造園職人が日々の作業の中で身につけてきた知識や技術、感性を地域の人たちと共有すること。
・企画、運営、実施すべてを職人が行うことで、職人の発想や声を直接社会に届けること。
・日本の自然と文化の関わりを皆で学びあい、身近な生き物のおもしろさや四季の美しさ、そしてそれらを慈しむ心を広げること。

造園職人は日々の現場仕事の中で、常に自然の素晴らしさや伝統技術の尊さを、一般の方たちよりも高い解像度で感じています。これを社会と共有しないのはもったいない。これが緑師ワークショップの発想の原点です。このワークショップを実践するには、職人としての技術力だけではなく、優れたコミュニケーション能力も必要です。私たち東京作業所の緑師たちは、それに取り組むことができる精鋭たちが揃っています。

緑師ワークショップでは、自然と人との関係性をつくってきた日本の文化についても解説する。
職人の日常は一般の方にとっては非日常。縄の結び方一つにも、そこには日本の造園文化がある。
この緑師オフィスから、更なる次世代の緑師が生まれるかもしれない。

まとめ

私たち緑師のキャッチコピーは、「みどり、になう。」です。この言葉は、緑地をつくったり管理したりする私たちの仕事の本質を、人と自然の関係をつくり、保ち、次世代へ渡していく仕事だと考えていることから発想したものです。緑師オフィスプロジェクトは、このビジョンと私たちのアイデンティティを目に見える形と場所にして、社会に発信していく取り組みです。私たちは、これからも緑師という職能の可能性を広げるべく、緑師オフィスを舞台に様々な取り組みにチャレンジして参ります。

著者
株式会社市川造園 東京作業所
作成
2023年2月